写真の撮り方
物体の発する光や反射した光を結像し、何らかの媒体に記録したものを写真と呼ぶ。カメラと呼ばれる道具には「撮影」という動作が必ず定義されており、撮影によって内部状態に画像を記録できる。内部状態を取り出して処理する(現像)ことで写真が得られる。大抵のカメラには以下のようなパラメータがあり、それらを最適化するのが撮影者の仕事になる。
焦点(Focus)
はっきりとした像を得るには、光学系の焦点をそれに合わせる必要がある。最近のカメラは対象物の距離を測定し、自動で焦点を合わせる(オートフォーカス)機能を持っているものもある。
焦点距離(Focal length)
焦点距離が長いほど像は拡大されて見えるようになる。デバイスの規格に依存して、ヒトの視野に近いと考えられている40度前後の画角を持つような焦点距離が決まり、その焦点距離を持つレンズを標準レンズと呼ぶ。APS-Cの規格のセンサーを持つデジタル一眼レフカメラにおける主流は35mmである。レンズによっては動的に焦点距離を変えられるものもある。
f値(f-ratio)
絞りとも呼ばれる。焦点距離を、レンズの有効口径(無限遠点にある点光源が通過できる光束の直径)をとおくと、対応するf値は以下のように表される。
多くのカメラは有効口径を動的に変える機構を備えている。f値が高いほど、像がはっきりと写る範囲(被写界深度)も大きくなる。
露出時間(Exposure time)
現在を0とする時刻tにおける世界の状態をとおく。世界の状態にカメラを適用し、それを定積分することによって画像が得られる。このときの積分する範囲が露出時間である。
露出時間が長ければ長いほど、世界の状態の変化が画像に表れる。そのため、ものを一定の位置に保つのが難しい生体がカメラを保持する場合、露出時間は10ミリ秒のスケールまで短くする。
ISO感度(Film speed)
ISO感度は理想的にはカメラ内の定数係数であり、ISO感度が2倍ならば、半分の露出時間、もしくは倍のf値で同じ明るさの画像が得られる。技術的制約により、ISO感度と画質はトレードオフの関係にある。
露出値(Exposure value)
露出はf値と露出時間によって決まる相対的な光量の尺度である。APEXと呼ばれる体系では露出値を以下のように定義しており、広く使われている。
撮影の流れ
ISO感度を簡単に変更できるカメラの場合、以下のようにするとやりやすい。
- 目的の焦点距離を決め、レンズを取り付ける。
- 目的の被写界深度を持つよう、f値を決定する。
- 対象物に焦点を合わせる。
- 露出時間を決定する。
- 適切な明るさとなるようにISO感度を決定する。もしISO感度が限界に達した場合、露出時間とf値を見直し、それでも明るすぎる場合は減光フィルターをカメラに取り付けて光量を減らす。暗すぎる場合はあきらめる。
- レリーズボタンを押して撮影する。
近年ではソフトウェアで現像できることも多い。筆者はAdobe Lightroomを使用している。
所見
近年のカメラは各パラメータを自動で計算する機能が備わっていることが多いが、目的とする表現が得られないことが多いため、咄嗟の場面でパラメータを気にせずに撮影したいという状況以外は推奨しない。
レリーズボタンにオートフォーカスを統合し、撮影する直前にオートフォーカスするようになっているカメラが多いが、予期せぬほうへ焦点を変えてしまう恐れがあるため、筆者は別のボタンにオートフォーカスをアサインし、レリーズボタンはレリーズボタンとしてのみ機能するように設定している。
まとめ
写真撮影は最適化すべきパラメータが少なく、比較的とっつきやすい。携帯電話などに内蔵された簡易なカメラしか使ったことがない人でも、本記事で触れたようなパラメータについて考えてみれば、本格的な写真撮影をする動機がきっと生まれるはずだ。
今のところ比較的簡単なモナドの作り方
準備
モナドを作るには、どんなモナドを作りたいか考える。モナドは一般に、どのようなアクションが使えるかによって特徴付けられる。その点ではオブジェクト指向におけるインターフェイスとよく似ている。
では、foo :: String -> M Bool
とbar :: M Int
という二種類のアクションを持つモナドを作るとしよう。まず、どんなアクションが使えるかを表すデータ型を定義する。
{-# LANGUAGE GADTs #-} data MBase x where Foo :: String -> MBase Bool Bar :: MBase Int
GADT(一般化代数的データ型)の各データコンストラクタがアクションに対応する。GADTsを使ったことがなくても心配してはいけない。引数の型と結果の型に着目しよう。
モナドにする
monad-skeletonをインストールする。
$ stack install monad-skeleton
モジュールをインポートし、先ほどのMBaseを使い、Mを定義する。bone :: t a -> Skeleton t a
でMBase
の値をM
の値にする。
{-# LANGUAGE GADTs #-} import Control.Monad.Skeleton data MBase x where Foo :: String -> MBase Bool Bar :: MBase Int type M = Skeleton MBase foo = bone . Foo bar = bone Bar
Mはもう、モナドになっている。拍子抜けするほど簡単だ。
:t bar >>= foo . show bar >>= foo . show :: Skeleton MBase Bool
モナドを使う
作っても使わなければ意味がない -- 誰か
アクションにdebone :: Skeleton t a -> MonadView t (Skeleton t) a
を適用すると、MonadViewというデータ型の値が得られる。
data MonadView t m x where Return :: a -> MonadView t m a (:>>=) :: t a -> (a -> m b) -> MonadView t m b
Return a
はそのアクションが実質的にreturn a
であること、t :>>= k
は最初に実行すべきアクションがt
であることを意味する。k
にt
の結果を渡すと、その次に実行すべきアクションが得られる。これらを使うと、Mを実際に解釈する関数を定義できる。ここでは、foo
を「与えられた文字列の長さがある値より短いか判定する」、bar
を「判定基準を返す」ものとして定義しているが、型さえ合えば実際はなんでもよく、一つのM
に対して複数の解釈を与えることさえ可能だ。
runM :: Int -> M a -> a runM n m = case debone m of Foo str :>>= k -> runM n $ k $ length str <= n Bar :>>= k -> runM n $ k n Return a -> a
monad-skeletonはDSL(ドメイン特化言語)を作るのに適している。何より、簡単に使えるのが売りなので、初心者にもおすすめだ。
runMのような「モナドを解釈する関数」に内部状態を持たせられたら便利なのに、と思う人もいるかもしれない。実はこれにも既に解決法があるので、次の機会に紹介しよう。
GHC 8.0.1/base-4.9.0.0の新機能まとめ
GHC 8.0.1は、最上位の桁が変わるだけあって、かなり新しい機能が追加されている。
base-4.9.0.0
めっちゃインスタンスが増えた
ghc/changelog.md at ghc-8.0 · ghc/ghc · GitHubを参照。あるべきインスタンスが存在することにより、孤児インスタンスを定義する必要がなくなるため、ぐっとストレスが減る。Monoid a => Monad ((,) a)
、Traversable ZipList
など、いくつかは私がやった。
Semigroup
ついにData.Semigroupが追加された。将来的にはこれはモノイドのスーパークラスになる。この変更によって、よりリーズナブルな定義ができるということも少なくないはずだ。
ベーシックな型が充実
Compose
, Product
, Sum
, NonEmpty
など、決して利用頻度が高くないとはいえ基礎的かつ重要な型が追加された。種多相になっているので型レベルプログラミングフリークにとっても嬉しい。
MonadFail
ついにfail
がMonad
から切り離された。もはやMonad
には一片の羞恥もない。
この変更のため、いくつかの警告や言語拡張が追加された*1。
Applicativeへの一般化
forever, filterM, mapAndUnzipM, zipWithM, zipWithM_, replicateM, replicateM_, traceM, traceShowM
がMonadからApplicativeへと一般化された。痒い所に手が届くようになるだろう。しかし、(*>)
が(>>)
より効率の悪い実装になっていると深刻なダメージになりうるため、Applicativeのインスタンスにはより関心を向けなければならない。
ApplicativeDo
ApplicativeDo
拡張を有効にすると、以下のコードをf <$> foo <*> bar
のようにしてくれる。
do x <- foo y <- bar return (f x y)
MonadよりApplicativeのほうが効率のよいような構造(クラシカルFRPにおけるBehaviorなど)では大いに役立つ。
Strict / StrictData
StrictData
を有効にすると、データ型のフィールドにデフォルトで正格フラグが付与される。アプリケーションを書くうえでフィールドを遅延評価させたい場面は少なく、いちいち!(……)
と書く手間がなくなるため非常に有用だ。これをずっと待ち焦がれていた。
Strict
を有効にすると、さらにありとあらゆる束縛が正格評価になる。やりすぎな気がしなくもないが、案外実用上は問題ないかもしれない。
TypeError
GHC.TypeLitsにGHC.TypeLits.TypeError
が追加された。type family TypeError (msg :: ErrorMessage) :: k
なる型族で、これを使うと型エラーを作れる。型レベルプログラミングがさらに楽しくなるだろう。
OverloadedLabels
IsLabel
というクラスが追加された。
class IsLabel (x :: Symbol) a where fromLabel :: Proxy# x -> a
OverloadedLabels
拡張を有効にすると、#foo
が(fromLabel @"x" @alpha proxy#)
(fromLabel (Proxy :: Proxy "x")
のようなもの)の構文糖衣になる。これにより多相なアクセサを定義できる可能性が生まれたが、非常に残念ながら型クラスの性質上van Laarhoven lens(lensパッケージのLens)にはできない。非常に残念だ。
GenericsのMeta
GHC.GenericsにMeta
という種が追加され、型定義のメタデータを表すM1
のパラメータとして与えられる。
data Meta = MetaData Symbol Symbol Symbol Bool | MetaCons Symbol FixityI Bool | MetaSel (Maybe Symbol) SourceUnpackedness SourceStrictness DecidedStrictness
Genericsでフィールドやコンストラクタ名を扱うのは骨の折れる仕事だが、これのおかげでいくらか楽になるに違いない。
種の同一性
種の同一性がきちんと扱われるようになった。これによりGADTの型レベルへの昇格や、種族の定義が可能になる。
型族のワイルドカード
type family Tail (xs :: [k]) :: [k] where Tail (x ': xs) = xs
と書かなければならなかったところを、
type family Tail (xs :: [k]) :: [k] where Tail (_ ': xs) = xs
と書けるようになる。ささいなことだが、型レベルプログラミングジャンキーにとってはナイスな改良だ。
単射なる型族
type family F x y = a | a -> x, a -> y
のようにして、型族が単射であることをあらかじめ定義できる。これにより、うまく型推論してくれる場面が増える。型レベルプログラミングフィーンドもこれでさらに活躍できる。
コールスタック
ImplicitParams拡張を有効にしたうえで、?callStack :: CallStack
という暗黙のパラメータが使えるようになる。しかしこれはいかがなものか……筆者としてはImplicitParameter自体かなり悪いアイデアだと思う。
コンパイル時間
型周りの大きな拡張により、コンパイル時間も追加されたようだ。エスプレッソを抽出したりラテアートを作る余裕もできるだろう。
比を最適化する
二つの負でない実数、を考える。比をある値に近づけたいといった条件が複数あり、それらを最適化したいとき、どうするのがよいだろうか。
序: 近道の階段
簡単な方法の一つとして考えられるのは、単純に比の差をとり、それらの平方の和を最適化の対象とするというものだ。
しかし、これは最適化の結果、しばしば、のどちらかが0にぶつかってしまう。これは目的関数として非常にいびつであり、直感的とも言いがたい。
破: バリアフリー化
0や1に近い比率は極端であり、望まれていない。境界に近づくほど目的関数が無限大に発散するようにできないだろうか。
そんなときに使えるのがロジットだ。ロジットは0より大きい1未満の実数を任意の実数に写像する関数である。
この関数を比に適用することで、極端な比にはそれなりに大きなペナルティが、なめらかでありながらも力強く課されるようになる。
とおくと以下のようにも表せる。
こうすれば、境界を気にすることなく最適化することができる。最適化される変数にとってもこれは心地の良いことだろう。
急: ノーマライゼーション
めでたしめでたし…と言いたいところだが、まだ気になる点はある。目的の比がもともと0や1に近ければ、は大きな絶対値を取る。そのため、その比にやたらと敏感になってしまう。差をロジットの導関数で割ってやることで、各比の感度を目的の値にかかわらず一定にできる。
まとめ
本記事では比を最適化するための方法について議論した。この考え方は多かれ少なかれ直感に基づいており、直感にうまく当てはまる表現を見つけることは有用だと感じた。
デシリアライザとスキーマ
盛大に遅れました…
最近思いついたネタで実用性の高そうなものを紹介。
binaryやcerealのようなライブラリはデータを密にシリアライズするが、その際にフィールド名や型などの情報は失われてしまう。かといってそれらを一つ一つすべて含めるとひどく効率の悪いフォーマットになってしまう。そこで、スキーマを分離できるような仕組みを作れないかと考えて作ったのがこのクラスだ。
{-# LANGUAGE TypeFamilies, ScopedTypeVariables, FlexibleContexts, UndecidableInstances #-} import Data.Binary class HasSchema a where type Schema a :: * toSerializer :: a -> Put toDeserializer :: Schema a -> Get a
HasSchema
クラスは、普通にシリアライズするメソッドtoSerializer
と、スキーマを使ってデシリアライズするtoDeserializer
を持っている。Schemaは型族なのでどんなものでも使える(一般にどうあるべきかよく考えていない)。
instance HasSchema a => HasSchema [a] where type Schema [a] = [Schema a] toSerializer = mapM toSerializer toDeserializer = mapM toDeserializer
同じスキーマの値が連続している場合、以下のTable
という型を使うと無駄がない。
newtype Table a = Table (V.Vector a) instance HasSchema a => HasSchema (Table a) where type Schema (Table a) = Schema a toSerializer (Table v) = put (V.length v) >> mapM toSerializer v toDeserializer sch = get >>= \n -> Table <$> V.fromListN n <$> replicateM n (toDeserializer sch)
このSchematic
というデータ型はスキーマとデータの対にすぎないが、これで包んでおくことで簡単にHasSchemaの力を引き出せる。
data Schematic a = Schematic !(Schema a) !a instance (HasSchema a, Binary (Schema a)) => Binary (Schematic a) where get = get >>= \sch -> Schematic sch <$> toDeserializer sch put (Schematic sch a) = put sch >> toSerializer a
今のところ、社内で使っているレコード型を簡単にシリアライズするために実験的に使っているが、より一般的で面白い使い方があるかもしれない。この記事では、実体のあるHasSchema
のインスタンス(instance HasSchema Int
など)は一切定義されていない。どう作っていくかは、これからの課題だ。
正格フラグ、バンパターン、正格版関数・データ構造
Haskellスペースリーク Advent Calendar 2015 9日目
Haskellerとて、時には厳しくならなければいけないこともある―― @fumieval, 2015
Haskellは遅延評価を基本としているため、場合によっては未評価の式が積もり非効率な状況に陥ることがある。これを防ぐため、部分的に正格評価にするための仕組みが用意されている。もちろんこれらは闇雲に使えばよいというものではない。使うべきポイントを把握し、これらを見逃さないようにしよう。
この記事では、それらの機能の正しい使い方、間違った使い方を紹介していこう。
カウンター・カウンターズ・サンクス
条件を満たす要素の個数とそうでない要素をそれぞれカウントするプログラムについて考える。アキュムレータ(ループの中で積み上げていく変数)は正格にしないといけないらしいので、BangPatterns拡張を使ってみた。どんなパターンでも、感嘆符をつけることによってあらかじめ評価を強制できるすごい拡張機能だ。
{-# LANGUAGE BangPatterns #-} data Counter = Counter Int Int count :: (a -> Bool) -> [a] -> Counter -> Counter count p (x:xs) !(Counter m n) | p x = count p xs (Counter (m + 1) n) | otherwise = count p xs (Counter m (n + 1))
残念ながらこれは意味がないどころか、スペースリークを解決できていない。というのも、countに渡しているのはCounter
のコンストラクタ、つまり評価する必要のない値である一方、Counterの中身にはサンクが溜まってしまっているからだ。コンストラクタではなく、中身にバンパターンをつけよう。
{-# LANGUAGE BangPatterns #-} data Counter = Counter Int Int count :: (a -> Bool) -> [a] -> Counter -> Counter count p (x:xs) (Counter !m !n) | p x = count p xs (Counter (m + 1) n) | otherwise = count p xs (Counter m (n + 1))
データ型のフィールドのほうに感嘆符をつけると、そのフィールド自体が正格になる。こちらは拡張いらずで、関数定義にいちいちバンパターンをつけなくてもよいので便利だ。
data Counter = Counter !Int !Int count :: (a -> Bool) -> [a] -> Counter -> Counter count p (x:xs) (Counter m n) | p x = count p xs (Counter (m + 1) n) | otherwise = count p xs (Counter m (n + 1))
遅延評価を含めた意味論にこだらわないのなら、すべてのデータ型のフィールドを正格にするのが無難な選択だろう。
data Maybe' a = Nothing' | Just' !a instance Functor Maybe' a where fmap f (Just' a) = Just' (f a) fmap _ Nothing' = Nothing'
この正格版Maybeは、fmapしても中身にサンクが溜まらないのでいいことずくめに見えるが、fmapが厳密には則を満たさなくなってしまうという欠点がある。fmap id (Just undefined)
はJust undefined
と等しいが、fmap id (Just' undefined)
はundefined
になってしまう。
もっとも、日常ではここまで気にしなければいけない場面は少ないので、ほとんどの場合は気にせず感嘆符をつけて大丈夫だろう。GHC 8.0からは、全フィールドをデフォルトで正格にするStrictData
という拡張が入るため、こちらを使おう。
Strictに早合点
Lazyだとトラブルを起こしやすいということで、「正格版」の関数やデータ構造を提供している場合もある。Data.Map.Strict
はその一例だ。
import Data.Map.Strict data AppState = AppState { ... buzz :: Map (Int, Int) Int ... }
しかし、Strictがついているからといって油断してはいけない。このAppState
におけるbuzz
を繰り返し更新するとスペースリークが発生する。実はモジュール名のStrictが意味するのは、挿入時などに要素(Int)が評価されるというだけで、Map全体は正格にはなってくれないのだ。やはりフィールドは正格にする必要がある。
import Data.Map.Strict data AppState = AppState { ... buzz :: !(Map (Int, Int) Int) ... }
関数適用を伴って更新する値は正格にしておこう。これさえ守っていればまずスペースリークは発生しない。
動物、とくにヒトと性について
我々脊椎動物は有性生殖をする。したがって、繁殖に寄与する性質が必然的に残り、そうでないものは消えてゆく。オスは精子、メスは卵を作り出すという非対称性があり、体つきや行動もそれに合わせるように決まるのは自然だ。一夫多妻制の種においては、オスはメスを取り合うためにより強靭で攻撃的な性質が要求される。日本では法律上一夫一妻制を取るが、その影響は強く残っているだろう。実際、オスとして生を受けた私も、コミュニティの中でそれを体感している。
生まれつきの体質か、育った環境のせいかは知らないが、幼いころは体が弱かった(3才のころ、両足飛びができなかったそうだ)。そのため、幼いころの私の趣味は読書、ままごとやお絵かきなど、他の男性とは大きく異なるものだった。「男のくせに」と罵られ、暴力を振るわれたりすることもあった。残念ながらこれは戦略として正しくて、後述する私の性質を考えても、私をこの時点で消しておくことは充分に合理的だ。周りに助けを求めることもあったが実際に改善された例は少ない。なぜなら私を攻撃するのは理に適っているからだ。一方で、女性からは好意を持たれることが多かった。乱暴で幼い男たちに比べ私はいくらか紳士的かつ女性的で、友達としてよい役割を果たせたのだと思う。破られたり壊されたりした私の持ち物を直そうとする彼女たちの優しさにはひたすら感心した。私は、純粋に害を及ぼすオスが嫌いで、利益をもたらすメスが好きだった。性をしっかり認識することは身を守るために必要だった。
第二次性徴を迎えるとやや事情は変わってくる。男性、女性はお互いを恋愛対象(繁殖対象という品のない言いかえもできる)として見るようになる。女性たちとは比較的友好的な関係を持っていたが、「モテない」「モテる」、つまり異性として魅力を感じるかどうかという評価軸ができたことも分かった。禁欲的というかそもそも欲がない私にはあまり関わりのないことだった。一方で、論理的な思考力と自信は強くなっていったため、教員と衝突することもあった。
高専(高等専門学校)に入学してからは性の意識はいくぶん変わっていった。高専は女性の人数が男性の1/5程度となぜか比較的少ないため、一夫多妻的な戦略に起因するような争いは少ないように見えた。別に男女間の仲が悪いわけではないが、同性同士で固まる傾向が強いと感じた。私が高専で経験した揉め事のほとんどは体制に起因するもので、クラスにおける学生同士の衝突はほとんど認識しなかった。おおよそ平和だったように思う。
就職してからは私的に女性と接することはほとんどなくなった。短時間だけ出勤する事務の方を除けば全員が男性で、たまに開催される勉強会でも男性の比率は高い(98%くらいだろうか)。これはプログラミングにおけるコミュニティは男性の比率が大きく、理由はわからないが私が主に使っているHaskellという言語の場合では特に高いためだ。プログラミングに要求される能力とオスメスの機能に関係があるようには見えないので、とても奇妙な話だ。個人的に女性が少ないことにそこまで不満を抱いてはいないが、男女が生まれる割合により近いほうが、我々にとって望ましいのではないかと思う。このような状況で、マイノリティの存在を非難したり、悪い方法で異常に取り沙汰するのはとても不道徳なことだ。
この話はおまけである。プログラミングは、主に人手を使わずに目的を達成するために行われている。より少ない人手(人数と記述量)で、より効率的に目的を達成するのがプログラミングの目標だ。また、プログラミングの生産性はコミュニケーションのコストのため人数に比例しないことが知られている。だとすれば繁殖は必須ではなく、むしろコストの増大要因となってしまう。もし繁殖が必要ならば自然とバランスがとれるはずだが、プログラミングの目的は繁殖とはむしろ逆なため、何らかの要因でバランスが崩れてもさほど非合理的ではないと考えている。
閑話休題、私は快楽主義者である。快楽を生み出す者を助け、邪魔する者には戦う姿勢を見せたい。より多くの快楽を、より効率的に生み出すのが私の究極的な目的である。
性愛の話はいつも人々の話の種だが、私は興味がない。社会通念にとらわれず、私の好きな方法を使ってひたすら楽しく生きていきたい。ただ、恋愛が発生しやすい環境にいないだけで、恋愛のようなものがあっても悪くはないのかもしれない。